NEWS NO.34(2016年度)
ベトナムで活躍中の伊能まゆ氏が本学で講演
5月27日(金)、酪農学研究科の環境共生学特論Iの特別講義として、本学特任研究員の伊能まゆ氏が講演し、留学生を含めた大学院生9名が受講しました。
伊能氏は、NPO法人Seed to Table(タネから食卓へ) 代表として、ベトナムのローカル・コミュニティとともに、アヒル銀行や在来種の保存、住民参加型の有機農業認証や環境保全などの活動を行ってきました。
はじめに、遠井朗子教授(環境共生学類 環境法研究室)が「伊能さんは大学時代に出会った森川純さん(本学の元教授)の一言がきっかけでベトナムの大学に留学し、卒業後は現地の農村支援のNGOで活動し、事務所の閉鎖に伴い、Seed to Tableを立ち上げ、地に足のついた支援活動を続けています。伊能さんは朝日新聞Globeでも取り上げられました」と紹介しました。
伊能氏はまず、取り組んだ背景について、「ベトナムは社会主義国で、計画経済の失敗により1986年に市場経済を導入しました。経済は発展していますが、都市部と農村の格差が広がっています。9千万人の人口のうち7割が農村に住んでいて、農業は主要な産業です。農家の経営面積は北部で1戸当たり10アール、南部で20~30アールと小規模で、収入は低いです。私は、農村に入って住民と一緒に調査をして、話し合いを重ね、農村地域の持続的な発展をめざすプロジェクトを進めてきました。支援に当たっては、①人や知恵、自然や在来種など地域の資源を活用する ②食料を自給する ③水・土壌・森などの環境を守っていく ④付加価値化、加工などの仕事を作ることを心がけています」と説明しました。
次に、取組事例を紹介しました。
「北部の山岳地帯のホアビン省では、中国産の種子が供給され、一時的に収量が増えましたが、数年後には病気や虫の害が出て収穫できなくなり、さらに中国が不作で種子が供給されなくなりました。これを契機に、農家が持っていた在来種の種を選抜して復元することにしました。在来種は収量が少ない一方、栄養価が高いものもあり、都会の人が美味しいと言ってくれれば、作る励みになります。
また、集落の人たちと村内にある植物や昆虫を採集して標本を作り、環境教育も行いました。思ったよりも多くの種類があることが分かり、住民の環境や自然に対する関心が高まりました。水源の水質を調査して農薬の成分が検出されたときには、減農薬でサトウキビを作る方法を教えてほしいと頼まれました。除草剤や化学肥料の使用により作業が楽になったけれども、健康への被害や土が硬くなって農業への影響を心配するリーダーが中心となり、有機農業を学び、実践するようになりました。調べて、結果について考え、行動を起こせる人が育ったことがうれしいです」
「南部のベンチェ省では、ベトナム戦争で米軍がまいた枯葉剤の影響で健康被害を患っている人たちが貧困層の中に多くいます。そうした地域に村づくり委員会を作り、子育て中の女性などにアヒルのヒナを貸して育ててもらい、成長して売却できたらヒナ代を返済してもらう取り組みを始めました。地域のエサを活用する、持続的方法で飼育する、免疫力を高めることが条件です。稼いだお金は、無駄にしないよう帳簿をつけてもらい、ウシ銀行などの大きなビジネスに移行してもらっています。この取り組みは、今は省の人が引き継いでやっています。
また、有機農業を進めて、農産物に子どもたちがデザインしたシールを張り、都会の消費者グループに売っています。消費者との交流は大事です。有機農産物などの食材や食文化を都会の人やシェフに紹介するイベントも行いました。
近年、メコンデルタ地帯では水位が上昇して生活用水に塩水が入り込み、水の確保が大きな問題となっています。淡水を貯めるタンクの設置を支援していますが、さらなる支援が必要です。こうした支援活動を進める上で、現地の人たちと信頼関係を築き、連携することがとても重要です」
講演の終了後には参加者から、たい肥と化学肥料の効果の違い、市民の情報共有の方法、アヒル銀行などのアイディアはどのように考えついたか等の質問が出され、伊能氏が説明をしました。
最後に、佐藤喜和教授(野生動物生態学研究室)が、「われわれ自然調査を行う者も、「地域のために」という気持ちから出発しています。環境共生学特論Ⅰは、地域との関係を重視するものであり、今日のお話は大変勉強になりました」と締めくくりました。
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