NEWS NO.143(2015年度)
実践農学で、エップ・レイモンド氏が講義
本学の農食環境学群・循環農学類の「実践農学」では、農業の分野でさまざまな立場で活躍している外部講師を招き、講義を行っています。11月20日(金)は、長沼町で有機農園「メノビレッジ長沼」を経営するエップ・レイモンド氏が、「有機農業と地域のつながり」と題して講義を行いました。
はじめに、循環農学類の三木直倫教授(有機農学研究室)が「レイモンドさんはアメリカのネブラスカ州出身で、大学卒業後カナダに12年間滞在して家具やパン作りなどを学び、1994年に来日、翌年に長沼町で就農しました。有機農業を実践しながら、CSA(Community Supported Agriculture)という、『地域が支える農業』という形で地産地消に取り組んでいます。有機農業の輪をどう広げていくか、そして食とはどうあるべきなのか、レイモンドさんのお考えを聞いてください」と紹介しました。
「どういう生き方をするか、どういう価値観を持ってどんな農業をしたいのか、それを考えた時、まず自分に問うたのが、『人間ってなんだ?』ということでした。これは、人間の役割とはなんだろうという問いでもありました。そして私は、人間を愛し、土を愛し管理することが、農業を営む人間の役割だと思っています。
農業にはいろいろな形がありますが、地域農業と、グローバルな大規模農業という、二つの対極の形態について話したいと思います。
地域農業では、作物を育てる農家とそれを食べる人たちが、直接つながり合っています。地域にはさまざまな産業があり、そこから出る廃棄物が肥料として活用され、土を豊かにして作物を育て、その作物を地域の人々が食べるという循環ができます。それに対して、大規模農業では、経済社会の中で、生産者はより高く売りたい、消費者はより安く買いたいという、相反する利害の元で争います。生産者は効率を求めて、限られた品種の作物を大量生産します。そのためには外部から生産資材を調達することになり、地域から資金が流出し、人が減り、土地の豊かさは失われていきます。
メノビレッジ長沼では、肥料のおよそ8割を地域の資材から自給しています。おからや米ぬか、大豆かすなどの残渣や、ニワトリの糞などを混ぜて発酵させます。化学肥料なら10アール当たり20~30㎏の施肥で済むところを、この肥料は350㎏が必要です。非常に手間がかかりますが、土はとても良くなり、安全で良質な作物ができます」。
「CSAは、農家によってやり方は違いますが、メノビレッジ長沼では80~90件の家庭を会員として、年間の農業経費を試算して会員数で割り、それを会費として春に納めてもらいます。そして、その会費を資金として作物を生産し、収穫した野菜や卵などをセットにして、2週間に1度会員に届けます。自分たちで配達を行い、食べる人の声を直接聞き、質問にも答えます。私たちは、農業は売るまでがゴールではなく、食べてもらうまでがゴールだと考えています。
日本政府が推し進めているのは、大規模農業、輸出ができる強い農業です。私たちは、それとは正反対のことをしています。地域の中で人と土がつながり、人と人とが思いやりをもってつながる、そういう小さな社会の存在が、大きな社会の流れを変える力にもなり得ると思っています」。
講義の後は質疑応答が行われ、「長沼町を選んだ理由は」「これからチャレンジして行きたいことは」などの質問が寄せられました。これからについてエップ氏は、「今は進学して町外で暮らしている子供たちは全員、町に戻って農業をしたいと言っています。酪農をやりたい、チーズを造りたいなどの希望を抱いており、それをこれからどう実現していくかがチャレンジです」と答えました。