獣医学群獣医学類3年 前田沙優里
サスカトゥーンでは、最近雪溶けがみられるようになり、牧場では子牛が産まれ、まだまだ寒いものの春の訪れを感じている。今回は、牧場での活動と大学の授業潜入レポートをお届けしよう。
写真:最近産まれたばかりのアンガス牛の赤ちゃん
1.牧場での活動
以前の報告書に今私が関わっている研究について書いたが、そのサンプルとなるアンガス牛の精液を牧場にて採取している。全体の流れとしては、始めに飼料を与え、器材などの準備をし、野外にいる雄牛を移動させて室内に順番に入ってくるよう整列させる。そして、各雄牛の体温と睾丸の径を計り、血液採取、精液採取を行う。まず、飼料について書こう。飼料は毎回計りにかけて、決められた量を朝8時前ごろに与える。35㎏、25㎏、15㎏、10㎏それぞれをバケツに入れて運ぶのだが、重い上に寒いのでなかなか大変な作業である。35㎏のバケツを持つときは、もっと体を鍛えないといけないと実感する瞬間でもある。さて、この飼料、以前は普通の飼料だったが、先々週ごろから、Ergot(麦角菌)を加えている。この含有率を変えていき、麦角菌入りの飼料が精子に影響するのかを調べていく。
次に、血液採取。正中尾静脈から採血を行う。これを遠心分離して、血清部分を冷凍保存している。この血清はのちにホルモンアッセイにかける。

写真:精液採取時の様子
最後に、精液の採取方法を簡単に説明しよう。まず、上の写真で背後に1人小さく写っている人が直腸に腕を入れて精管膨大部をマッサージする。私の感想としては、雌牛に比べて腕を入れやすい。それからProbe(日本語名が分からない)と呼んでいる、電気刺激を与える器材を直腸にいれる。上の写真の一番手前でしゃがんでいる人が電気刺激を調節し、射精する瞬間を見計らって精液を採取する。意外と重要な役割なのが、上の写真でいう左側の人。牛によってはかなり暴れるので、牛が後ろの人を蹴るのを防ぐための鉄棒が飛んで行ってしまわないように手で押さえている。結構力がいる上に顔に尻尾があたろうがとにかく手が離せない。しかも、他の人の安全に関わってくるので結構責任重大。体をもっと鍛えなければと感じる瞬間2回目である。上の写真の時は、私が記録係をしている。

写真:作業後の写真。
この3人が恒例のメンバーで、もう1人アシスタントが来てくれることが多い。大好きな2人だ。
2.授業潜入レポート
先週まで4週間に渡り、サスカチュワン大学の獣医カレッジはMental Health Weekという期間で、全学年を対象とした特別授業を学部生向けに開講していた。私は学部生ではないが、時間があるときに紛れて授業を受けていて、日本の授業との違いを感じたのでここに記載することにした。まず初めに、カナダの獣医カレッジのシステムについて説明しようと思う。カナダ全土には獣医カレッジが5つあり、それぞれ4年制であり、その上に大学院のMaster-degree(2年制で修士号獲得)とPhD Program(4年制で博士号獲得)がある。獣医カレッジに入学することができるのは、カナダ国籍所持者であり、4年制の大学を好成績で卒業している人だ。志望者が多いため、入学のためには、成績以外にもアドバンテージとなるボランティア経験などが重要となってくる。非常に狭き門だ。そのため、Pre Vet Clubという獣医カレッジ志願者のためのサークルがあったり、志願者に経験を提供する有料の夏期特別講座(成績などの指定がある場合もある)があったりする。最近は学生の7~8割は女性らしい(入学志願者の多くが女性というわけではなく、4年制大学の好成績卒業者が女性に偏っているためだとか。)。このような背景があるため、獣医学部の授業を聴講しに行くと、学生のほとんどは白人女性、しかも結構年齢も高そうな人が多いので、私が混ざるとかなり浮く。だが、獣医学生は人数も少なく教室も小さいので、授業中にドーナッツが回ってくるなど、アットホームな雰囲気はとても良い。
それでは、授業の様子をお伝えしよう。私はProfs & PetsとLGBTQ+2Sのレクチャーを受けた。他にもペットとのヨガ教室も開講していて参加してみたかったのが、時間が合わなかったのが残念である。
Profs & Petsの授業はこの4週間平日はほぼ毎日開講されており、実際に来院した伴侶動物の問診をもとにどのような臨床検査が必要か考え、さらにその診断結果をもとに鑑別診断をしていき、どのような治療方針をたてるか考えるという授業だ。学生たちはとてもリラックスして授業を受けており、ごはんを食べている人もいれば、何かお菓子を持ち込んでいる人もいる。先ほど述べたように、誰かがドーナッツを箱ごと買って、回してくれることもある。そして疑問があれば、授業中その場でガンガン質問していくし、先生もどんどん学生たちに意見を求める。インプットをしつつもアウトプットができる、ただ授業を聴講しているのではなく、参加しているというのが相応しい表現だ。また、ハンドアウトは配られないので、ラップトップを持ち込んでメモしている学生が多い。(私は専らノート派だが…)
LGBTQ+2Sの授業は、なぜか病理の教授が担当しており、授業の主旨としては、獣医師としてこれから職場の仲間にLGBTQ+2Sの人がいることは多々あり、臨床医になればお客さんがLGBTQ+2Sであることもあるので彼ら彼女らへの理解を深め、差別心を無くそうというものである。多様性を大事にしているカナダらしいレクチャーだ。ちなみに私が知らなかったことは、ゲイの定義は同性愛者で、女性同士の場合もゲイと言うということだ。もちろんレズビアンとも言える。また、2SというのはTwo-Spiritの略で、カナダの先住民のことを示している。この授業ではサスカチュワン大学で作成されたビデオを見たあとに学生が先生に聞きたいことを質問していくだけというもので、もし質問が無かったら一瞬にして終わってしまうようなものなのだが、質問や意見が多くて驚いた。私は、人の脳(心)とホルモン、性器の相互関係性と診断名の定義が興味深かった。このようなレクチャーは日本でも取り入れていくべきだと思う。

写真:Profs & Petsの授業の様子。上のスクリーンに問診結果や検査結果が映し出される。
教壇が低い位置にあり、席が階段状になっており、どの席からでも黒板が良く見え、先生も全学生の顔が見渡せる。声が響きやすく、学生の質問の声も良く聞こえる。
私は一度だけだが、獣医カレッジではなく一般のサスカチュワン大学の生物学の授業に紛れて聴講したことがある。本大学で最大となる大講堂で学生数も非常に多い。獣医の授業のような先生と学生の距離の近さはあまり感じられないが、やはりこの授業でも学生たちは食べ物を持ち込んでリラックスして聴講している印象だった。事前に授業スライドが学生に送られているようでほとんどの学生がラップトップを持ち込んでスライドに書き足していた。
酪農学園では、ほとんどの授業でハンドアウトが配られるのでとても恵まれた環境だと実感した。その一方で、こちらの獣医カレッジのように、学生が授業中リラックスできて質問しやすい雰囲気づくり、ストレスフリーな教室設計というのは見習えると思う。